人の脳は、手足を動かしたり、痛みや温度を感じ取るだけでなく、記憶、注意、学習、思考、判断などの「高次機能」もコントロールしています。
ところが、脳卒中(脳梗塞、脳出血、クモ膜下出血など)、脳腫瘍や交通事故や転落による脳外傷によって脳が損傷を受けると、これらの機能が失われてしまうことがあります。この状態を「高次脳機能障害」と呼びます。
高次機能障害は、片麻痺などの身体の障害とは異なり、周囲から気付かれにくく、本人も自覚がないことから、「見えない」障害と呼ばれることもあります。そのためご本人はもちろん家族や周囲の人も戸惑うことになってしまいます。
高次脳機能障害は、損傷した脳の部位によっていろいろな症状が現れます。
これらの症状を理解することで、患者さんのリハビリや生活および就労支援に上手に繋げることができます。
側頭葉に損傷を受けた場合に起きやすい障害です。 自分自身が経験した出来事に対する記憶が障害される「エピソード記憶障害」や、学習することによって獲得した知識の記憶が障害される「意味記憶障害」、体を使って覚えた作業や工程に関する記憶が障害される「手続き記憶障害」など記憶障害がさまざまな程度で組み合わさって起こります。
前頭葉や頭頂葉に損傷を受けた場合に起きやすい障害です。
注意力(集中力)が低下するために以下のような症状が起こります。
ある目的を達成するための一連の行為を順序立てて取り組めない障害です。
洗濯をしながら料理をするといった二つ以上の行動が同時にできなくなってしまいます。
前頭葉と側頭葉に損傷を受けた場合に起きやすい障害です。
社会的行動障害は、人と交流する際に必要な「我慢」が難しくなる障害です。例えば感情のコントロールができずに、すぐに怒ったり笑ったりする、食べ物を無制限に食べてしまう、相手の立場を思いやった行動ができないなどです。
記憶障害、注意障害、遂行機能障害もあるために周囲との良好な関係が保てなくなってしまい、トラブルの原因になることも多いです。